「黄色潜水艦」遊びジャーナル(仮元祖1)

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実戦問題試作・夏目漱石「三四郎」2


 浜松で二人とも申し合わせた様に弁当を食った。食ってしまっても汽車は容易に出ない。窓から見ると、西洋人が四、五人列車の前を往ったり来たりしている。そのうちの一組は夫婦と見えて、暑いのに手を組み合わせている。女は上下(うえした)とも真白な着物で、大変美しい。三四郎は生れてから今日(こんにち)に至るまで西洋人と云うものを五、六人しか見た事がない。そのうちの二人は熊本の高等学校の教師で、(略)、女では宣教師を一人知っている。随分尖(とん)がった顔で、鱚(きす)またはカマスに類していた。だから、こう云う《[9]ハデ》な奇麗な西洋人は珍しいばかりではない。頗(すこぶ)る上等に見える。三四郎は一生懸命に見惚れていた。これでは威張るのも尤もだと思った。自分が西洋へ行って、こんな人の中に這入ったら定めし肩身の狭い事だろうとまで考えた。窓の前を通る時二人の話を熱心に聞いてみたが些(ちっ)とも分からない。熊本の教師とはまるで発音が違う様だ。
 ところへ例の男が首を後(うしろ)から出して、
「まだ出そうもないのですかね」と云いながら、今行き過ぎた、西洋の夫婦を一寸(ちょいと)見て、
「ああ美しい」と小声に云って、すぐに生欠伸(なまあくび)をした。三四郎は自分が如何にも田舎者らしいのに気が着いて、早速首を引き込めて、着座した。男もつづいて席に返った。そうして、
「どうも西洋人は美くしいですね」と云った。
 三四郎は別段の答も出ないので只はあと受けて笑っていた。すると髭の男は、
「御互は憐れだなあ」と云い出した。「こんな顔をして、こんなに弱っていては、いくら日露戦争に勝って、一等国になっても駄目ですね。尤(もっと)も建物を見ても、庭園を見ても、いずれも顔相応の所だが、――あなたは東京が始めてなら、まだ富士山を見た事がないでしょう。今に見えるから御覧なさい。あれが日本一の名物だ。あれより外に自慢するものは何もない。ところがその富士山は天然自然に昔からあったものなんだから仕方がない。我々が拵(こしら)えたものじゃない」と云って又にやにや笑っている。三四郎日露戦争以後こんな人間に出逢うとは思いも寄らなかった。どうも日本人じゃない様な気がする。
「然しこれからは日本も段々発展するでしょう」と弁護した。すると、かの男は、すましたもので、
「亡びるね」と云った。――熊本でこんなことを口に出せば、すぐ擲(な)ぐられる。悪くすると国賊取扱にされる。三四郎は頭の中の何処の隅にもこう云う思想を入れる余裕はない様な空気の裡(うち)で生長した。だからことによると自分の年齢(とし)の若いのに乗じて、他(ひと)を愚弄するのではなかろうかとも考えた。男は例の如くにやにや笑っている。その癖言葉つきはどこまでも落付いている。どうも見当が付かないから、相手になるのを已めて黙ってしまった。すると男が、こう云った。
「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より……」で一寸切ったが、三四郎の顔を見ると耳を傾けている。
「日本より頭の中のほうが広いでしょう」と云った。「囚われちゃ駄目だ。いくら日本の為を思ったって〔[イ]贔屓(ひいき)の引倒し〕になるばかりだ」
 【[E]この言葉を聞いた時、三四郎は真実に熊本を出た様な心持ちがした。同時に熊本にいた時の自分は非常に卑怯であったと悟った。】
 その晩三四郎は東京に着いた。髭の男は分れる時まで名前を明かさなかった。三四郎は東京へ着きさえすれば、この位の男は到る処に居るものと信じて、別に姓名を《[10]タズ》ねようともしなかった。


問一 《[1]から[10]》までのカタカナを漢字に改めよ。
問二 〔[ア][イ]〕の意味を述べよ。
問三 【[A]未来をだらしなく考えて】とあるが、なぜ「だらしなく」なのか説明せよ。
問四 【[B]嬉しく感じた。】理由を説明せよ。
問五 【[C]黙ってしまった。大学生だと云いたかったけれども、言うほどの必要がないからと思って遠慮    した。】とあるが、この時の三四郎の「必要がない」判断について説明せよ。
問六 【[D]妙に不愉快になった】理由を説明せよ。
問七 (一)【[E]この言葉を聞いた時、三四郎は真実に熊本を出た様な心持ちがした。同時に熊本にいた時      の自分は非常に卑怯であったと悟った。】について文脈から具体的に分かりやすく説明せよ。
   (二)髭の男の言葉に対する上記[E]の心境にも関わらず、特に名前を聞かなかった三四郎の判断・心     理を全文から推測した上で、君ならばどうしたか、その理由を明確にして400字程度で述べよ。

(問三から問六までは縦15センチ横3センチ、問七の(一)は、縦15センチ横5センチの解答枠。
制限時間は90分。)

<問一・問二の解答>
[1]推[2]律儀(義)[3]会釈[4]挨拶[5]果物[6]存外[7]縁故[8]不明瞭[9]派手[10]尋
(各1点=10点)
[ア](へきえき)勢いに押されて尻込みすること。(4点)[イ]好意から特に力を添えて世話・後援するあまり、かえって相手のためにならない結果を招くこと。(6点)
問三から六の「考え方・解答例」は次のページ。
http://blogs.yahoo.co.jp/foolscaps_circles/59936757.html

て、ことで、
付録は漱石とはカンケイのない「姿三四郎
なのだが、
ここで、漱石がこの歌を知ってたら、
さて・・? と、
ついでに「男(なら)」「女(なら)」の概念も、
演歌とともに現代文テーマでありやんすので、
学問に「好き嫌い」はダメダメだよってに、
ま、聞きなはれ。。